低気圧をこえて 3

クリスマスは一度晴れ間が覗いたものの、その後も天気は乱れ続けた。
寒波は強まるばかり、どんよりとした低い雲の覆う空は連日の天気予報が煽る通りで、まるでそれに伴うよう、花形の目も暗く濁っていった。一度は落ち着いた夏の不調が再び彼を襲っていたのだ。
つい先日までの流川さながら、練習中も試合中もミスこそしないものの、目に見える気力のなさにその様子を案ずる声が囁かれる。……が、いざ声をかけてみればいつも通りの応答が返ってくる。
「なあ花形……」
「ん? どうした?」
「いや、なんでもない……」
自覚のない不調を責めるのも憚れるか、メンバーはそれ以上尋ねることをしなかった。よってメンバーの統率を担うキャプテンにその視線は集中したが、当の藤真はスタメンから花形を外したまで。練習中も特に指摘することなく、黙って様子を見るに留まった。ただ一言だけ。
「天気が天気だからな……」
不十分な理由に周囲は揃って呆然とするが、そんな心配すら花形には届いていない様子だ。彼は最近、練習を終えると真っ先に体育館を後にする。
藤真はこれ以上花形に触れず、花形が去った館内でメンバーに年明けの予定を告げた。
「年明け早々、三日に試合入れる予定だから、気ー抜くなよ」
そしてもう一つ朗報を……
「それとだな、二階のギャラリーを見てもわかるように、これだけ後援者がついたことでチームとして一つステップアップした。来年からは市の体育館借りて、ユニフォームも新調する。ちなみにチームカラーは緑だ。実はスポンサーの話も一件もらったが、今のところ様子見だな。来年はもっとでっかくしていくぞ」
おお……と皆が目を輝かせる中、一人だけ、惺が後ろで落ち込んでいた。
同刻、先に帰路に就いた花形は車内で薬を飲み込む。片手に頭を抱え辛そうに目を細めながら、流れるsynspilumの曲に益々顔色を翳らせていた。
鬱々と重く悲しげな旋律。それは今にも泣き出しそうな声で、こう歌っていた。

〜ラジオから海上予報が聴こえる。
「低気圧がやって来ました。
ですが、あなたを傷つけることはありません。
孤独なあなたのためにやって来たのです。
一人でも怖くないと伝えるために」〜




※:this is a low より
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