日、出づる国 4 |
一人花形の部屋に戻っていた流川はまたもベッドでゴロリ、卓上の目覚まし時計を度々見やり、縁に置いた指先でカタカタと貧乏ゆすりに暮れ、やがて階段を上る足音を聞くなり素早く身を起こした。 程なく開いたドアの前で至近距離の対面、花形に驚く間も与えず、その胸倉を引っぱり無言でベッドに押し倒した。上から長い四肢を封じ、面と向かい、酷く苦り切った顔で彼はここまでの不満を吐きつけた。 「遅っせーのあんた」 仰向けでたじろぐ花形のシャツのボタンに手を掛け、ベルトを外しチャックも下ろす。前だけ開けた無防備なその姿を前に、更に溜め込んだ今日までの苛々を流川は全てぶつけたのだ。 「あんた誰にも優し過ぎ。ムカつくからやめて」 嫉妬に満ちた捨て台詞はいつにも増して早口で、「え……?」という返事を塞ぐべくそこに熱い口付けが落とされる。 されるがままの花形はただ横たわり、たった今、一枚を経て握られた下半身に目を落とした。包み込む掌の往復に幾度と顔を歪め、そして首筋へ、胸元へと下りた口付けがその更に先へ辿り着くと、今唇に触れたソレを一際熱く滾らせる。すぐにも咥えこむ積極的な奉仕にとうとう上体を起こし、その甲斐甲斐しい頭を掌で愛でるのだった。 しかし今日もまた、そこに痛みが走ったようだ。 「いっ、痛いよ」 「ゴメン……」 にべない謝罪と共に持ち上がった顔を窺えば、それはまだ口を尖らせている。 「もしかして、結構怒ってる?」 「いや」 否定しつつもむくれた顔はぷいとそっぽを向いてしまう。わかりやすいへそまがりを見て、花形はつい口許を緩ませた。目を合わせようともしないわからず屋を優しく抱き締め、ベッドに寝かせ、ご機嫌取りの愛撫を施すのだった。 ――12/31 tue PM11:52:31―― 白く明る電気の下、大人しくジャージを剥かれた流川は全裸で遠く目を細める。上から圧し掛かってきた男に乳首を転がされ、耳許を這うキスから逃れぬまま身悶えては顔を赤く、吹き込まれる吐息混じりの声に背中をゾクリとさせる。 「今日は俺の誕生日だ」 だから許せ、とでも言わんばかりにほくそ笑む花形だが、その今日が間もなく終わろうとする今、流川からとんでもないバースデープレゼントが差し出された。思い出したようにふと手を伸ばし、布団の下から取ったそれがハイ、と花形の眼前に持ち上げられた。 「ハイってコレ……持ってきたの?」 悪びれもせず頷く流川が手にするのは透明の容器だ。それは先程惺の部屋の三段目の引き出しから出てきた物、つまりローションだった。 「いやまあ、そういうための物でもあるだろうが……」 花形はやや不安気に隣の部屋を一瞥。早く、とせがむ流川は時計を一瞥。 ――12/31 tue PM11:55:07―― 花形は受け取った容器のその中身を、傾けてもさらりとは流れない水分をまじまじと見つめていた。 そういうための物……受け入れる側の負担を和らげてくれるそれが今宵、二人を結び付けてくれるようだ。 しかしここにきて花形が急に躊躇いを見せる。透明の液体の奥にじっと流川の顔を見下ろし、その額から前髪を撫で上げ、神妙に問いかける。 「いいのか? 本当に……」 流川は静かに笑っていた。黒髪を暖房にそよめかせ、ぎこちなく片頬を持ち上げただけのその表情は、いつにも増して穏やかだ。伸びた右手が花形の片頬に添えられ、口付けを誘うようにして年上の恋人に安心を捧げていた。 「先輩、好き?」 「ああ」 真っ直ぐな瞳を見つめ、流川が顔を背けて笑うと、花形もまた照れくさそうする。表情を覆い隠すよう流川の首筋に凭れ、花形はその胸元に覚悟を込めた。 「言っとくが、先に反則を犯したのは流川だからな。退場はなしだ」 「反則?」 天井に疑問符を浮かべる流川は、その反則に対する罰を身をもって受け入れることとなる。仰向けのままグイと押し広げられた脚の間に今、塗り付けられた水分に腰が跳ね上がった。「冷てっ」という声も無視され、指先の弄ぶそこから粘度を帯びた水音が響いた。 「こんな物持ってきて、もしバレたら俺は、惺に何と言えば……」 少し強気な花形の物言いに眉根を寄せる流川だが、それもすぐ、悩まし気な色香を漏らす。 「ンゥ、ッ…………」 身を捩るあまり今にも花形を蹴り上げそうな足を、その膝裏を自ら押さえ、流川は声を噛み締めていた。膝裏に爪をめり込ませ、歪む顔いっぱいに三本目の挿入を堪えていたが、ふと、今その声質が変わった。 「ハァ、ぁ……ンイぃ……」 挿し入れた指を引き抜く際、高く裏返ったそれは苦悶の狭間で確かな艶を帯びていた。流川自身も驚いたか、剥いた目で水槽を見つめ、暫し呼吸を整えていた。 ――12/31 tue PM11:59:47―― 「悪いが、もう時間だ」 花形の宣告と同時に今一度流川の肢体が組み敷かれる。照明を真上に仰いだソコはぬらぬらと照り、今あてがわれたソレの先端に小さく反応する。惜しみなく晒された恥部に埋まろうと先走る肉棒との、許されない接触が花形の眼下に広がった。 そして数秒の躊躇いの後で一息、特に声かけもなく花形は腰を沈めたのだ。黙々と埋め込む彼にいつもの落ち着きはなく、緊張を患った眼差しで悶える流川を見下ろす。 「あ……ンゥ、ンァァ………」 必死に藻掻く流川の指は何もない虚空に縋り、漸く触れたシーツを握りそこに幾重にも皺を作る。「先輩……」と掠れた声が優しさを請うが、下肢はしかと両手に抱え込まれ、阻む筋力を掻い潜り、最奥のその奥まで埋め込まれていった。 ――01/01 wed AM00:00:00―― 四肢を絡め、腰を密着させたその身体が今ゆっくりと重なる。身を貫かれた流川の身体は緊張を解くに解けず、ただ力のやり場に戸惑い、身悶えたままの声をそのまま吐くしか出来ないでいた。 そんな彼の耳許に、「ゴメン……」とだけ囁く花形はそこで眼鏡を外す。ダッシュボードにそれを置くとゆっくりと腰を引き、そして再び貫き、のたうつ流川を見下ろしては専ら憂いの色を浮かべた。 しかしそれでも腰を打ち付ける男に流川はとうとう泣き出していた。額に無数の汗を、目尻に涙を浮かべた流川の爪が、今は花形の腕に食い込んでいる。それでも欲望をぶつける最低な恋人を、愛に飢えた涙目で鋭く睨め付けていた。 その人は言う。 「ゴメン。今は優しくできない」 クッ、と歯噛みした流川は遂に拳を握るが、その人の、言葉とは裏腹の愛情に容易く屈してしまった。首筋を這う無数のキスがそこに更なる色付けを、素肌を愛でる唇が甘やかな声を誘い、反り勃ったままのソレを右手に捕られては、色香が増すばかりだった。 ――01/01 wed AM00:14:20―― 激しい律動に身を委ね、痛みを伴う愛を流川は身体で知った。苦悶の貼りついた表情のまま荒々しい呼吸に暮れ、時折、射幸に満ちた恍惚を浮かべていたのだった。 |
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