妖艶の煙 4 |
――陵南高校 3年A組―― 机と椅子が窮屈そうな百九十センチの大男は、今日も机に片頬を密着させていた。今にも寝てしまいそうなほどにぼんやり薄目を開けているが、授業中である今、決して寝ているわけじゃない。右手にはしっかりシャーペンを持ち、芯の先をノートに走らせていた。しかしノートの端に描かれていたのは一本の煙草だ。右下の隅に描かれたその先端を黒く塗ると、そこからもくもく漂う煙を描く。描いては、まるでその煙に似た溜息を吐く。 「おい仙道、次の行の『The cry of the man echoed high in the sky.』訳してみろ」 教卓の前に立った教師が突如仙道を指名する。仙道はがばっと上体を起こすが、黒板に書かれた英文を見てははっとして、ぶつぶつと呟いた。 「echoed……ああ、echoかな……」 「そうだエコーだ。さあ早く訳せ」 「えっとー、わかりません」 悪びれもせず会釈で済まそうとする仙道の扱いには教師も慣れているのか、それ以上咎めることはなかった。 そして今一度溜息を吐いた仙道は、授業が終わっても机に頬を貼り付けたまま、英語のノートを出したままだ。 「echo、だったのかな……」 ノートの煙草を見つめては一人密かににやついている。それを見た周囲の生徒がひそひそと話し込むが、仙道は見向きもしない。 「ハァ、たまんねぇな……」 ほんのり上気した顔で声を漏らした彼はふと、自らの脚の間に伸ばそうとした手を行き着く手前で止めた。深く頭を抱え込んだと思えば今度ははっと顔を持ち上げ、今日数度目の独り言を零した。 「待てよ……流川が相手になるなら…………」 何やら確信を得た彼は怪しくほくそ笑み、いつかの台詞を呟いた。 「……そう、最後は俺が勝つからだよ」 仙道は放課後、部活をさぼり駅へと向かった。 一方、放課後を迎えた湘北体育館は今日も賑やかだ。流川と洋平の間にあったことなど当の本人すら忘れているようで、流川は練習に励んでいる。洋平はいつもの出入口から桜木の練習を見ている。 「いいぞ花道ー」 ……いや、呼びかける洋平の声に流川は依然、動きを止めた。その様子が視界の端には入っているだろうが、洋平の視界の中心は今日も桜木で、やかましい軍団と共に桜木を煽っている。 するとそこに、盛り上がる軍団の背後から今、巨大な影がゆっくりと迫ってきた。 「チワーッス」 低く太い大人の声に、ギョッとして振り向いた軍団は「ぬぉっ! 仙道だ!」「おおおお」「やっぱでけー」と仰々しく騒ぎ立てる。間近で見る仙道は素人の男から見ても別格の存在だった。 そんな仙道の眼差しは洋平に、そのポケットに視線を転ばせた。中からオレンジの紙箱が、頭文字の『e』が覗いていた。 「やっぱり」 嬉しそうに笑う仙道を見上げ、洋平もまた顔を顰める。いつかとんでもない場面に鉢合わせた男の顔を覚えているのだろう。 館内で練習に励むバスケ部も漸く仙道の訪問に気付いたらしく、真っ先に突っ掛かったのは桜木だ。 「ぬっ? なんだセンドー、スパイか?」 「あはははは、まあそんなとこかな」 手を止めたキャプテン宮城も声をかける。 「仙道……うちに何の用だ?」 「いやぁそれが、この間忘れたユニフォーム取りに来たんだけど、どこにあるかな? 一応田岡さんから連絡いってるはずなんだけど」 「ああ、それなら事務室で預かってっから。じゃあ……俺行ってくるわ。ヤスあと頼む」 そう言って、持っていたボールを安田にパスしようとしたところで仙道が透かさず申し出た。 「いやいいよ、練習中キャプテン欠いちゃ悪いから、そこの人にでも案内してもらうよ」 そこ……と指されたのは軍団で、直視されたのは洋平だ。 「君、いい?」 「え? 俺? まあいいけど」 「よろしくね」 そう言って、怪訝な様子の洋平を仙道が朗らかに連れ出していった。 身長差のある二人の背中に鋭い視線を刺す流川だったが、ここらで練習試合の後のことが蘇ったようだ。 「まさか…………」 あの部室での淫行を人が見ていた、と言った洋平はそれを流川のライバルだと言った。つまりその人物とは…………。流川は直ちに体育館を出ようとするが、すぐ宮城に捕まる。 「おい流川、もう煙草は許さねーぞ」 依然疑いの晴れぬ流川にとって宮城の睨みは瞬殺だった。大人しく練習に戻る流川を他所に、二人は別棟へと消えて行った。 その途中の廊下で、仙道が尋ねる。 「ねえ、こっちでいいの?」 振り向いた仙道はどういうわけか洋平の前を歩き、慣れない校舎の中をあちこち見回していた。 後ろを歩く洋平は悠然と後頭部に手を組みながら、気怠い返事を返すまで。 「ああ、事務室っすよね? ええたぶん合ってます」 「ねぇ君、名前は?」 「水戸」 「下は?」 「洋平」 「洋平くんかぁ、うんうん」 一応二年三年という年の差はあれど、二年生の生意気な態度に仙道はムッとすることもなく、相変わらずあっけらかんとしている。 「あ、そこ右っす」 「階段は? 上がんの?」 「そ」 こうしてどうにか忘れ物のユニフォームを受け取ったその戻り道、二人は横に並んで歩いていた。 「洋平くんさぁ、今日はずっと部活見てるの?」 「んー、そろそろ飽きたかな」 「ははは、じゃあちょっと遊ばない?」 「俺と? 何すんの?」 仙道の唐突過ぎる誘いに唖然とする洋平だが、「嫌ならいーけどさ」とあくまで暇潰しだと言った様子には考え込むことをしない。 「まあ別にいーけど、何すんの? っつーかあんた陵南のキャプテンじゃねーの? いーの部活?」 「んー、そうだなー……ゲームする? ウチで」 「ウチってどこ?」 「そんな遠くないよ」 「……はあ」 二人はそのまま体育館に戻らず、真っ直ぐ駅へ、仙道宅へと向かっていった。しばしば出入り口を見やる流川を体育館に置いて……。 青空の下、とくに共通の話題もなければ会話が盛り上がるでもなく、駅から徒歩数分で到着したのはアパートの二階だった。仙道がドアの鍵を開け、「あがって」と促したそこは入ってすぐに部屋を見渡せるこざっぱりとした1DKだ。 「へー、仙道さん釣りやんの?」 尋ねた洋平は玄関脇に立て掛けられた釣り竿を見て、そして狭い玄関や簡素なキッチンまで見回してみてもう一つ。 「あれ? 一人なんすか?」 「うん、そうだよ。あ、その辺座ってて」 洋平は通された八畳の部屋のテーブル前に腰を下ろした。白い壁に囲まれたそこでまたぐるりと見回せば、長身に見合った大きなベッドがその背中に迫る。なるほど……と把握したところでフワッと舞い込んだ風はベランダからだ。開いた窓の向こうにジャージ、タオル、下着、靴下が干され、家並みの合間に遠くに水平線が覗いていた。 仙道が居間に戻り、「はい、お茶」と差し出されたグラスを洋平が手に、一口含み、そこに再び吹き込んだそよ風に涼しげな顔をして、両手を大きく後ろに着いては姿勢を崩し、寛いだ。 「居心地いいな……」 「そう?」 そのまま風が引くまでの静かな時間、爽やかな無言の合間に、二人の間で氷が鳴る。仙道はテーブルに着いた頬杖から手前の男、水戸洋平をにこやかに見つめていた。 洋平が、早速問いかけた。 「……で、訊きたいのは練習試合の?」 単刀直入に切り出せば、仙道はあっさり頷く。 「ははは、わかった?」 「やっぱあんただったんだなー。一瞬先公かと思って本気でビビったぜ」 「いやー、俺も目が合った時はかなりビックリしたよ」 「はは、だよな。あんなの見たら俺も引くわ」 ……と、先程までのよそよそしさから突如打ち解けた二人は俄然、まるで以前からの友人のよう親しげに、饒舌に会話を咲かせた。 「洋平くん、好きなの流川?」 「好きも何も、アイツ無理矢理」 「あっはっはっ! まあ、らしいっちゃらしいかな」 「でもダメだアイツは、本当顔だけだな」 「え? 何がダメなの?」 「童貞」 「あっはっはっ! そういうことか」 「まああの日は前日徹マンだったし、乗り気じゃねーのもあったんだけど」 おおらかな仙道と妙に達観した洋平は、意外と馬が合うのかもしれない。間もなく部屋に夕陽が差し込むまで談笑が止むことはなかった。が、次に場の空気を塗り替えたのは仙道だった。突として彼の目が据わり、声音がより低くなる。 「ねえ洋平くん?」 「何?」 「俺も」 「……?」 「俺も。洋平くん好き」 だから……? と真顔で応えそうな洋平の口はすぐ、笑い声を発した。 「ははは、マジかよ」 「うん、マジ」 サラリと返す笑顔とは裏腹に、真っ直ぐに射る黒い瞳はまるで告白そのものだった。 「まさか、あんたもヤリてぇの?」 「はは、いーの? よっしゃ!」 半笑いの洋平の前で、すでにガッツポーズを決める仙道の告白は成功したようだ。無駄を省いた円滑なアプローチに、洋平は頭を掻きつつ呆れていた。 「ったく、バスケのエースは変態揃いだ」 言ったその口がすぐ、「あ、その前にシャワー貸して」と浴室へ向かう洋平を見て、仙道がニッコリ微笑んでいた。 そして洋平さえ身体を流せば二人はもうベッドの上だ。 「しかしでっけーなベッド……」 「普通のサイズじゃ足はみ出ちゃって」 「はは、あんた本当でけーもんな」 すでにカーテンが閉められた八畳の壁際、煌々と点いた灯りの下に広がる海色のベッド。持ち込んだ緩い談笑の合間に、仙道が早速誘い出た。 「さ、おいで洋平くん」 シーツをポンポンと叩き、寝転がったその隣に男を促せば、男は素直にそこで寝そべる。そしてすっと笑顔を閉ざし、仙道の顔をじっと見つめて放つ洋平の淡白な世辞は、理科室での流川に対するものと同じだった。 「あんたも綺麗な顔してんのに、もったいねーよ」 あんたも……に仙道の笑みがやや固まるが、その顎を指で掬って引き寄せた洋平の蕩けるようなキスによって二人の夜は始まった。 「ン……ヤバいな……」 舌先の絡み合う合間に言葉にならない声を漏らし、右手を洋平のシャツにかけた仙道は透かさず洋平の上に跨る。湘北のシャツのボタンを上から外し、キスを仕掛けつつ窺い見たのは、微かに眉間を寄せた洋平のもどかし気な視線、吐息。片手間にベルトを外しながら開いた胸元にキスを落とせば、その頂きに辿り着けば、洋平が身がピクッと震える。手応えを得た仙道は更なる舌使いを執拗に繰り返す。 「ハァ、あっ……」 次第に甘い声を漏らし出した洋平の手が仙道の頭に触れていた。同時に洋平のトランクスに忍び込んだ右手が熱く直立したソレに触れれば、またビクビクと身を震わせていた。上下に摩ればより熱を発し、腰を浮かせくねらせる。 しかし、遂に洋平のソレを口に含み始めた時だった。 「あ、仙道さん」 ふと上体を起こした洋平が無表情に呼び掛けたのだ。 「ん? なに?」 「ここ、タバコ吸って平気?」 「んまあ……いーよ。特別」 「すんません」 ベッドの下のフローリングに脱ぎ捨てられたズボンを拾い、そのポケットから取り出したのはechoとライター。事も半端に取り残された仙道が唖然とする手前で、洋平は手慣れた手付きで早くも口にしていた。辺りに煙が漂い始めた。 とりあえず……と洋平の両脚の間に入った仙道はその中心に顔を埋めるが、籠もり出した紫煙に忽ち表情が曇る。口から出されたソレはすっかりぐにゃぐにゃに垂れ、仙道は苦笑いを浮かべた。 「好きだね、タバコ」 「ああ、もう病気だな」 正しく病気と謂う洋平の据わった目に、やるせない笑みを乗せた仙道はやおらベッドを降りた。ベランダの前で窓を開ければ、そこは夜も爽やかな潮風が舞い込む。同時に紫煙も外へ伸び、やがてそれが部屋から去るまで仙道はそこに立っていた。その日、仙道はそれ以上煙を吸うことはなかった。 数分後、ズボンのポケットから携帯灰皿を取り出し、処分するのを見届けた仙道はベッドへと戻ろうとして、ふと立ち止まる。きっと切っても切れないだろうこの苦い香りに触れ、ぼーっとスカした洋平の虚ろな横顔を見て呟いた。 「何か、上手くやる方法はないかな……」 仙道はベッドへ歩み寄り、一糸纏わぬ……いや、今も残る苦味に包まれた洋平を無言で後ろから抱き締めた。うなじに鼻先を近付け、すぐに顔を歪ませた。 洋平が問う。 「タバコ、嫌い?」 「うん、すごく」 ……という、ここまで来て無配慮な仙道の即答は洋平の笑いを、そしてその心も誘ったらしい。 「ははは、あんたいい人だ」 「あは、好きになれそう?」 「そっすね。あんた顔もいーし、手付きもいーし、たぶんココも好きだぜ?」 ……と、意味深長な横目で後ろの顔を見上げた洋平が仙道のソレを後ろ手に、ジャージ越しに撫で上げる。 「もう限界だな」 すると恥じらいもなくはにかむ仙道の、ジャージを押し上げる熱い怒張を自らの尻に感じたのだろう。洋平の下半身も漸く熱を取り戻した。そして………… 「なあ仙道さん」 「なんですか洋平くん?」 「コレ、挿れてくれよ」 向きかえりつつコレ……と仙道のソレに触れながら、「……いいの?」の問いに「ああ」とキスで応じる。絡み合う舌先は勿論苦味を含むが、仙道は寧ろ乗り気だ。洋平をうつ伏せに寝かせると、その尻を突き出させ、その中心に舌を這わせた。一度そこを離れては微かに身を揺らす四つん這いの姿を横から眺め、そして唾液で充分に湿らせた指一本を恐る恐る挿し込んだ。すると忽ちビクッと背中を仰け反らしたところで二本目、三本目で声が漏れる。 「……ハァ、んっ、……せンッ、……もう、挿れ……」 突っ伏していた枕から顔を持ち上げた洋平の逆上せあがった声に、仙道はオフェンスの鬼に変身した。いきり勃った自身のソレを十分に解した中心部にあてがい、徐々に侵入させていった。 「あっ、……ハァ、……ンンっ」 きつく阻む肉圧の中にソレが埋め込まれてゆく度、苦痛とも快楽とも取れる声が部屋中に響き渡る。みちみちと貫くその音は熱い摩擦により、潤滑代わりの僅かな水分が発し、二人を益々結び付ける。 「ハァ、ぁ……ぁ、せッ……」 時間をかけてその全身が埋め込まれると、仙道もやっとの一息を吐く。 「ハァ、たまんないね……」 そしてまずはゆっくりと、気遣いの窺える腰遣いにより洋平も苦悶を消し去った。安堵と恍惚の表情を横に向け、喘ぎ喘ぎの呼吸を繰り返す。 何度か腰の位置を改めた仙道は最良の角度を捉えたか、尻をがっちり掴みながら次第に律動を早め、自らの形に慣らしていった。 奥を突き込まれる度、悶える身を枕握るその両手に支えた洋平は、やがて絶頂を迎えた。 「はぁ、んっ……あ、んぁっ、あ、イ……ク……」 ビクビクと中も体も痙攣させながら達する洋平を見て、仙道もその余波を受ける。 「……うッ、ク……っ……」 奥まで突っ込んだままの中出し……相手が女性なら大問題だが、今日の相手は男。引き抜いた仙道はソコから漏れる自らの白を見て、そそくさとティッシュ箱を取りつつ洋平に謝った。 「出しちゃったけど……大丈夫洋平くん?」 「まあいっすよ、気にしねぇで。とりあえず風呂場貸して」 「勿論」 ティーシャツに着替えた仙道が乱れを整えたベッドの上に座っていると、ガラッと浴室の戸が開いて洋平が戻ってきた。 「すんません、適当に石鹸借りました」 「ああいいよ。あ、髪洗ったんだね?」 「頭乱れちまったんで」 それは仙道も初めて見る姿で、水分を含んだままざっと掻き上げられただけの前髪は疎らに崩れ、そこから覗く眼差しもより色艶を含んで見えるのは、立ち上る湯気の所為だろうか。 座ったままの仙道が自らの内腿をぽんと叩き、「おいで」と洋平を促す。洋平もまた大人しく仙道の膝に座れば、その姿を横のスタンドミラーに見て、意外と違和感がないことを本人も感じたようだ。 「なんつーか、女みてーだな」 後ろの仙道は今度こそ煙草の臭わない、石鹸の香り漂ううなじに顔を寄せ、洋平の背中を抱き締めた。そこに一呼吸を置いたあと、今日初めて会話したばかりでセックスまで及んだ彼に、こんなことを尋ねた。 「洋平くん、一ついいかな?」 「なに?」 「男は、初めてじゃあない、よね?」 「ん、まあ」 「だろうね……」 頷いた仙道はすでに察していた口ぶりで、同時に肩を落とした。一運動の後の漂う虚脱感と相俟った沈黙が流れ、程なく先に口を切ったのは洋平だ。重い溜息を一つ落としたの後、あまりに重い告白をした洋平の口ぶりはとても軽かった。 「仙道さん知りたい? 俺の初めて」 「んー、聞かせてくれるなら」 「……俺昔売春に手ー出してさ初っ端からしくじって、上の人間にケツで弁償させられたの」 「そ、それって……」 売春、ケツ、弁償――健全な高校生の口からはまず出てこない単語に言葉を詰まらせる仙道だが、すぐフォローに転じた彼の目には憂いが滲んでいた。 「……怖くなかったの?」 「まあ、今こうして生きてられるだけありがてぇって話」 「そっか……」 あまりに重い出来事に、それを語る口の軽さに仙道の肩は沈んでいた。これ以上の言葉を尽くしたようでまたも暗い沈黙が漂うが、この空気を変えるのはこんな告白をした洋平の責任だ。 依然顔色を落とす後ろの彼に洋平が問いかけた。 「ねー仙道さんさー、好きなの? 俺のこと」 「うん、好きかな。洋平くんは?」 「俺も好き。あんたのチ○コ」 余計な二言目に仙道が高らかに笑う。 「あははは、言うねえ。最高だよ洋平くん」 「だろ?」 「まったく、酷いな洋平くんは……」 言ってはまたも影を落としそうになる仙道を見て、洋平もまた気を遣った。 「まあ仙道さんはいいやつだ。結構好きだぜ?」 「本当に?」 「ああ」 そして洋平から、後ろ手に仙道の頭を支え、無理に喉を逸らせてのディープキス。現金なことに、「こりゃやられたかな」と最早メロメロの仙道の顔を洋平がをジッと見据えていた。 「やっぱ顔もいいよな……マジもったいねーよ」 「そりゃどうも」 この日、洋平はそのまま泊まった。遠慮はしたが、湯上がりは風邪をひくと言って仙道がほぼ無理矢理泊めた。 「洋平くん、もう俺ら付き合っちゃう?」 「ははは、やだわ」 「フッ、コノ……」 そのまま夜明けまで激しく乱れ、翌日二人は学校をサボった。 夕時になって洋平を送った仙道はせめて部活には顔を出したが、そこでは前日の無断欠席に対する田岡の説教が待っていた。 |
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