Pinocchio 4


――翌日。昼休みのチャイムで生徒は授業から解放される。忽ち空腹を刺激する匂いが立ち込める教室で、安田は弁当を広げるより先に、今日もそこを後にした。昨日とは違い、妙に浮足立ったその姿を周囲も不思議そうに見つめていたほどだ。
……昨晩、安田の中で結論が出た。洋平を『好き』なのとはまた違う、もちろん嫌いなわけではないが、これは恋愛の気持ちと別であるくらいは安田でも判別がついた。つまり求めているのは体の関係だ。きっと洋平もそのつもりなのだろうと、今日は足早に体育館のトイレへ向かっていった。が、ガラ空きのトイレにまだ洋平の姿はない。少し早く来てしまったのかと中の手洗い前で待っていたところ……
「あれ?」
漸く現れた待ち人は、安田を見て驚いていた。
「つーか、来たんすか?」
つまり昨日、例の写真は返したのだからすでに用済みだと洋平は思っていたようだ。
しかし今日の安田は視線を落としつつもじもじとはにかみ、洋平をチラチラ見やりながらもしっかり頬を染めている。
「……はは、しゃーねーな」
安田の想いは通じたようだ。洋平はすぐに安田を個室に押し込め鍵を閉めた。そして、まずはここに来たことの褒美とばかりの昨日に続くキス。安田の頭を片手で掴み、少し乱暴に舌を絡め回した。
すると早くも暴れ出す安田の鼓動。洋平はそのまま安田のシャツをまくり、晒した胸の突起を捕まえると、また痛いくらいに抓りあげた。
「いッッ、たぃ…………」
でも……と言った具合にとろける視線。甘いキスと胸を抓られる痛みに安田の下半身は熱を発した。
「そうだよ安田さん、いい子だね……」
そう言って、洋平は頭を掴む手を離し、安田の下半身へ滑り込ませる。
すでに直立していた。
「あんた正直だ」
満たされた悪魔の笑みに、安田のソレも悦んでいた。
「ハァ、あッ…………ンぁッ」
「いいよ安田さん、もっと感じて」
更なる快楽を促す右手の往復に安田は恍惚として、次第に身をびくつかせる。快楽から逃れるよう洋平の胸に縋り、昨晩もこっそり甘えた相手に今一度甘える。
「あ、洋平くんっ……ハァ、あ……もッ――…………」
「出しちまいなよ」
低い声音が発せられた瞬間だった。昇り詰めた安田の欲が壁にまで飛び散っては二度、三度と個室を白く汚した。興奮した分の疲労が副作用となって表れるが、洋平は息吐く間を与えてくれなかった。
「安田さん、休むの後だよ」
すでにベルトを外し、下半身を露わにした洋平が安田を見下ろしていたのだ。
そこで「え……?」と固まる安田は当然のこと、初めていきり勃った同性のモノを目の当たりにしている。
「早くして。時間ねーから」
昼休みが終われば掃除の時間、あまり使用頻度の少ないここもその対象となる。
しかし一向に動かない安田に痺れを切らした洋平は、強引に引き寄せた安田の手に自分のソレを握らせた。それでも何もしようとしない安田には厳しく作法を躾けた。
「あんたさー、自分だけ良くなるつもりで来たの?」
「えっ!? いや、そういうわけじゃないんだけど、その……わかんないんだ、ゴメン」
洋平は小さく舌打ち。
「膝、ついて」
安田は言われたとおりトイレの床に膝を着いた。すると素早く頭を押さえられ、洋平のソレが今目の前に、口元に…………。慌てる安田を無視し、口内にグイと押し込まれた。
安田は顎が外れそうな具合に大きく口を開け、呼吸を止めつつ言葉にならない声をモゴモゴと発していた。
「安田さん嫌なら逃げていいよ」
口では許す台詞に反し、洋平の両手はしっかりと安田の頭を押さえ込んでいる。
先端が喉まで押し込まれては安田も目に涙を浮かべるが、だからといって逃げようともしなかった。徐々に慣れてきたところで洋平の熱いソレを、キスの次に与えられたソレをゆっくりとしゃぶり出したから、これにはさすがの洋平も目を剥いた。
「─―――? 安田……さん……?」
歯を立てない滑らかな往復。時に不慣れな口内の動きに卑猥な音が響くも、呼吸に喘ぎながら健気に吸い付いてくるその姿に、洋平は見惚れていた。
「あんた本当……いい玩具だ……」
程なく、安田の喉奥に流し込まれた。
安田は急な噴射に驚くが、少しずつ飲み込んでは今一度洋平のソレを咥え込む。付着した精液を残らず舐めとる。
「安田さん…………」
今日は洋平が呆気に取られていた。
「うがいしてもいっすよ。じゃ、また明日」
ソワソワと身支度を整えた洋平は、言ってはそそくさと個室を出て行った。
残された安田は静かに呼吸を整えながら、ぐったりと壁に凭れかかり、恍惚を浮かべ、人差指で小さくトン、と壁を突ついた。
「洋平、くん……」
まるで恋する眼差しで、扉の向こうを見つめていたのだった。




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