Pinocchio 2 |
――俄然、洋平は我に返る。はっとして見回したこの部室はただの物置、兼更衣室でしかないようで、ティッシュなど気の利いた物はない。つまりこのまま事を進めたところで後の処理をどうするか……。 妙なところで冷静になった洋平は、安田のソレからすんなり手を離した。立ち上がっては当初の目的である頼まれた着替えを手に、花道のロッカーにしまった。そして床に寝そべったまますっかり呆気に取られた安田を見て、用足しのついでのように軽く告げた。 「安田さん。明日の昼休み、体育館裏のトイレね」 そのまま何事もなかったかのように洋平は去って行った。 「え………………? っと……」 一人取り残された安田は、今日の洋平の行動に全く頭が追いつかない様子だ。そっと体を起こしつつ呆然と目を丸くしたまま、程なく閉まる部室の扉をただただ見つめていた。踵を踏んだシューズをかったるそうに引きずって歩く、洋平特有の足音が遠退く中で、改めて今日の経緯を振り返っていた。 まずは洋平が冷たい声で、そっと安田の耳元で……じっとりと蔑む瞳で…………。顧みては頭を抱える安田の思考はすでに侵されていたようだ。まずは起きたことを一から辿るはずが、すでにその一を忘れているのだから。 今、あれだけ大事に持っていた写真は安田の尻に踏まれている。恋心を追い出してまで頭が占める記憶はそう、洋平が安田のソレを撫でつつ放ったあの一言だった――――。 『安田さん、今のよかったの?』 ……いいわけがなかった。あんなにも痛くて無理矢理で、卑怯で卑猥で屈辱的な……。しかし再生した瞬間から蘇るあの感覚、ゾクゾクと背中が粟立つ瞬間。何より安田のソレは未だに落ち着こうとしない。それだけではない、強く抓られて痛がった突起もまだジンジンと熱を発している。洋平に聴覚を舐められながら、味覚を塞がれながら受けた強い刺激はどうやら安田の体の奥深くに強く刻まれてしまったらしい。……時すでに遅かった。 顔を真っ赤に染めた安田はそわそわと着替え、そして部室を出ると体育館とは逆の方へ、廊下の奥のトイレへと小走りで向かっていった。一人奥の個室に籠もるとすぐ、安田はトランクスに右手を突っ込み、先程の感触を辿るようにソレを扱き始めたのだ。 遠く部員らが練習に励む声に苛まれるどころか、徐々に目を細める彼の耳には幻聴が響いた。 『なんなのその格好、誘ってんの?』 洋平の、あの突き放した声だった。 程なく欲は吐き出され、部活で賑わう放課後の声に漸く現を取り戻した安田はそそくさとモノをしまい込むと、大きく肩を落とす。 「僕、何してんだろう……」 安田とて学校でこんなことをするのは初めてだ。安田にも当然性欲はあり、現に藤井という年下の優しそうな女の子に恋をしていて、すでにあの写真にも何度か世話になっていたわけだが、洋平に散々な嬲られ方をした今は藤井のことなど頭から消えている。…………そう。部室に置いた写真のことをすっかり忘れたまま、安田は部活に向かったのだった。 |
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