Boys love 2 |
クラスが替わってからも晴子と松井ちゃんとの交友は勿論続いた。けどそれは主に放課後のことで、それぞれのクラス内に友達ができた今は昼食もクラスで弁当を囲んでる。 「藤井ちゃんって、彼氏いるの?」 「んーん、いないよ」 結局似たようなやり取りに始まるけど、全員恋人も好きな男子もいないとなればこれ以上膨れることはない。三年五組でできた女子友達四人、見た目は綺麗な子から私と変わらず地味目な子まで、女子の会話をする分には楽しくやってた。毎日行動を共にするうちに何でも打ち明けられるくらい仲よくなり、テストの点数まで気兼ねなく見せ合ったりした。 しかし進級から一月が経つと、私は彼女たちに対し怪訝な目を向けるようになった。……というのも、今日だってそう。昼食を終えると決まって三人がひそひそと不思議な会話を始める。受けや攻めといった聞き慣れない単語が飛び交い、こそこそ本の貸し借りをしてる。 「ねえ、前から気になってたんだけど、それ何?」 私がその本について尋ねると、彼女らは忽ち頬を染め、苦笑いでそれを隠してしまう。 「藤井ちゃんはだめよ、私たち軽蔑されちゃうもの」 「そうよ、きっと嫌われちゃう」 つまり、嫌われるような本を彼女たちは見ているということ? すると、いつも一人だけその会話には混じらない友達が言った。 「私は軽蔑なんてしないけど、そこまで興味ないかな?」 ……となると、この中で真相を知らないのは私だけ。折角できた友達の中で私一人、仲間外れにされてるわけじゃないけど、そうじゃないのはわかってるけど、みんな親しく接してくれるからこそ私も歩み寄りたかった。それにやっぱり気になって仕方ない。日に日に興味をそそられた私の中で、人知れず育った怖いもの見たさにとうとう火が付いてしまった。 「ここまできたらもう教えてよ! 絶対に軽蔑なんてしないから、ねぇお願い……!」 普段は控え目な私の本気に、三人の友達は顔を見合わせていた。どうする……? と勿体ぶってたけど、程なく目の前に差し出されたその本とは、その表紙の絵とは………… 「えっ…………っと、これ……」 エッチなもの、グロテスクなもの、オカルト的なものが私の脳内に挙がってた。そして今視線を奪うその表紙がどれに値するかとなれば、エッチなものだ。ただし想像していたエッチなものとは少し違う、道端に捨てられていたエロ本とは似てるようで全く違う。 主張する肌色のいやらしさにのぼせたのか、激しく胸がときめいていた。初恋とも少し似た、甘く切なくくすぐったい感覚。でもそれ以上に胸がときめいてしまう、興奮にも似た感情。なんといっても未だ表紙から目を引き剥がすことができないから、私も少し困惑した。 「藤井ちゃんどう? 軽蔑しない?」 不安気に覗き込む友達へ、私は胸のドキドキまかせにこう訊き返した。 「これって、内容もその……エッチなの?」 彼女らは再び目を合わせるなりにやりと笑い、それを今度は手渡してきたから、ある意味で歩み寄りは叶ったことになる。 「藤井ちゃん、今日これ貸してあげるから」 「明日感想聞かせてね」 そうして遂に手にしてしまった一冊の小説……。小説といえばただの小説に過ぎないけど、この表紙は日中の校内で公然と見ていていいのだろうか。半裸の美男子が絡み合うこの卑猥な絵は、即ち十八禁というものでは……? 「あ、だからこそこそしてたんだ」 悟った私はふと周囲を見回してから素早くそれを鞄に閉まった。周囲の誰もが見向きもしていなかったことに大きく息を吐き、高鳴る胸を押さえては、ここで初めて彼女らが躊躇っていた理由を知った。軽蔑の意味も知ると同時に、自分が三人と益々深い仲になれる。そんな気がして、ちょっと怖くなった。 帰宅後、私は自分の部屋へ駆け込むなり早速それを取り出した。手にした表紙から一度目を逸らし、再度見つめればやはり、昼間と同じドキドキが蘇る。椅子に腰掛け、ページを捲る前に部屋の鍵を閉め、カーテンを閉め、階下に鍋を煮込む音を確認。隣の部屋にもまだ帰らない兄を確認。フゥ、と一息吐いたところで階下から母親の声が届き、飛び跳ねた心臓をギュッと押さえ込んだ。 小説の内容は、表紙の通り男同士の恋愛を描いたものだった。主人公葉山と青柳は同級生だったが、特に面識もないまま卒業。二十三歳を迎えたある日、家業が破綻し極貧生活を送っていた葉山が邸の小間使いとして雇われたことで二人は再会。 |
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