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ギュッと強く瞑っていた目を開けたのは、中の侵入が留まって少し経ってから。するとじっと見据える眼差しが、朧ろ気な視界を鋭く射抜いてきた。 「動くよ……?」 そう聞いてすぐ、ずいと引かれた腰が再び打ち付けられる。水分を含む卑猥な音を同時に聞いた。 「う……やぁあっ……」 安田は先程のAV女優と同じ、呻きに近い嬌声を上げた。入り口から最奥までを一気に貫かれ、打ち込まれるスピードが徐々に速まる。摩擦により一層熱を帯びた中は痛みを麻痺させ、そして安田の意識を吸い取ってゆく。 「はっ、あっ、あっ、んぅあぁ……」 呼吸を欲す口はだらしなく開いたまま、律動の揺れがそのまま声に乗る。上から打ち込まれていたソレは、今はせり上げるようにして腹部を圧迫していた。……いや、確実にある一部を突いてくるのだ。 「あっ、ぁあんっ」 ……はしたない声を発した気がする。点けっ放しのAVより大きな、欲望を曝け出した身体の声。止まらないその声は、覚え始めた性感を休みなく刺激され、より熱を孕んだ。 「いいね、今の……」 余裕を保つ声が目の前の彼から。しかしすぐ、それは艶を帯びた気だるい息遣いが加わる。 「はぁっ……もう、出すよ……」 数回を激しく突き込まれてから、咄嗟に強く抱き締められ、静止した中で飛び出した熱を奥に受け止めた。 中でドクドクと脈打ち続けるのを感じて、それが止むまで暫く彼の腕の中にいた。そして、そっと触れられただけのキスに甘く蕩けた。 金の蛇口からジョボジョボと湯の溜まる浴槽は白。広く清潔でいやらしさの欠片も無い。湯気が行き交う隣の洗い場もまた広く、そこで座るように言われたのが先の不思議な椅子だった。安田は素直に尻を着けた。 換気扇へ吸い込まれる一筋の白は、眼前に立った彼の口端に咥えられた一本からだ。洋平もまた全裸をさらし、腰掛けた安田の前で膝を着いていた。シャワーを手に温度を調整し、「ちっと力抜いて」と手を差し込まれたのは不思議な椅子の隙間。椅子の中央の、安田の座るその下からソコに指を突っ込まれ、更にはシャワーをかけられる。 「な……な、何するの……?」 強めの湯飛沫を直に受け、慌てる安田の中に指がぐりぐりと出し入れされた。 「え……ちょっと怖いよ。何なのこれ……」 もしや新しいプレイが始まるのかと思わず腰を浮かせた安田に、下からじっと見上げる視線はやや苛つきにある。 「安田さん動かないで。中洗ってやってんだから」 苦々しく教えてくれた彼には素直に頷いた。安田は大人しく腰を据え、そして一つの疑問を解消した。 「あ、これ、そのための椅子なんだ……」 「……ああ、まあ」 今日、安田はまた一つ知識を得た。 その後、洋平に言われた安田は大人しく、トランクス一枚でベッドに腰掛けた。そこに温くなった炭酸の缶を差し出した洋平はトランクスの上にティーシャツを着て、首にタオルを掛け、濡れた前髪を下ろしていた。口許に缶コーヒーを傾けながら、テレビの知らせる午後十時を今更心配していた。 「そういや時間、家に電話しなくて平気なの?」 「ああ……平気」 とは言いつつも、安田の脳裏には母親の真っ赤な顔が浮かんでいた。本当は今すぐにも電話すべきなのだが、先日のランキングで抱いた劣等感を思い出しては、ふと小さな見栄を張った。 「泊まる?」 「うん……」 畏まった即答に、彼はフッと薄笑っていた。そして財布を片手に精算機の前へ、千円冊数枚を差し込んだ。 「あ、お金……」 安田が金額を案じ立ち上がると、すでに精算を済ませた洋平は何食わぬ顔で戻ってくる。 「いいよ」 「でも……」 「安田さん、俺何のためにバイトしてたか知ってんの?」 不機嫌に詰め寄る彼にまたも押し倒され、再びベッドインした。 テレビも電気もを消した室内にはささやかに有線が流れる。女のコの歌う可愛らしいラブソングが、二人の空気を邪魔しない程度に甘く囁く。ベッド脇からは温もりのあるスタンドライトが淡く灯してくれる。 そして、向かい合う天井への気恥ずかしさを遮ったのは、早速上に重なってきた優しい彼だ。淡く照らされた横顔が、「痛かった?」と今更案じた。垂れ落ちた前髪からは同じシャンプーの香りが漂っていた。 「もうしたくない?」と続いた言葉に、安田は大きく横に首を振った。フッと鼻で笑った洋平に顎を摘まれ、今日一番の熱いキスを貰った。しかしキスを解いた彼にはすでに表情はなく、僅かに首を傾けながらじっとこちらを窺っていた。 「大学行っても俺のこと忘れないでくださいね」 真顔で放つ柄に合わない台詞に、安田は耳目を疑う。はははは、と本人を目の前に、声に出して笑った。 「あ、これまじの告白よ?」 ……どこの誰が言ってくれるか、告白よ? なんてしおらしく続けられれば益々可笑しい。 「ははは、似合わないよ」 もうまともに顔も見られない程笑いが止まらなかった。しかし、彼の手にかかればそれは簡単に止められてしまう。 「あ…………」 楽しい笑い声が瞬時に消え去った。今、お風呂で柔らかくなった胸の突起に強い電流が走る。同時にパンツのゴムを擦り抜け、差し込まれた指は下のソコから、収縮したばかりのキツイ入り口を掻い潜る。 「え…………?」と驚きの声を発した後、「ぁ…………」と納得した自らの声が微かに艶めいているのがわかった。すでにこの身体は、彼の操るままの人形と化していた。 「ぁ……っ洋平く……んっ!」 安田にとって、ここまで長い夜は生まれて初めてだ。 「洋平くん……好き…………」 「俺も好き……」 確かな腕の中で、二人きりの甘い時間は、安田の抱く劣等感を全て葬ってくれた。 |
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