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一人シャワーを浴びている間、隅にある不思議な形の椅子に終始疑問を抱いていた。
程なく浴室を出た安田に奥から声がかかった。
「どうせまたすぐ脱ぐんだから、そのままでいいよ」
トイレと浴室以外隔たりのないここで、その無気力な声は良く通った。
「え? あ、ああ……」
安田は丁寧に丸められたタオルを取り、一通り身体を拭った後で一応腰には巻いておく。晒した胸の突起は未だヒリヒリと、赤く熱を発し続けるそこには気を配りながら脱衣場を後にした。すると、徐々に奥から聞こえてきたのは女性のあんな声だ。ソファに腰掛けた彼の向こうで、この場に最も相応しい光景がテレビ画面に広がっていた。
「な、何これ……」
「何って、AV」
ソファの横で呆然と立ち尽くす安田に、洋平は画面を無表情に見つめたまま、奥の肘掛けに頬杖をついたままでふとこちらを見上げる。
「それより安田さんさぁ、この前藤井さんと何話してたの?」
「あ、見てたの?」
その鋭い目つきには何かと見透かされているようだが、別にやましいことはない。安田はありのままを伝える。
「手紙貰ったんだ」
「何だって?」
「いやぁ、卒業おめでとうって」
「持ってる?」
「うん」
カバンに入れっ放しだった手紙を取り出し、安田は洋平に手渡した。「こっち」と促されたソファの隣に腰掛け、並んでその内容を追った。
「ふーん」と、淡い水色の便箋に隣の彼はざっと目を通す。
「字って性格出るよね?」
「え、あ、ああ……」
「いい子だよね藤井さんって」
言葉のわりに心の籠もらない、無愛想な呟きを隣に聞く。
しかし安田には、そんな彼女直筆の籠もった手紙の意図が全く伝わってこなかった。
「でも僕、この手紙の意味よくわからないや」
「そう?」
「だって急に、新しい恋愛頑張って欲しいとか、なんでこんなこと……」
まさか彼女の方に未練があるのかとも考えたが、それにしては少々まわりくどい気もする。
「別れてよかったなんて、こんなことわざわざ手紙で言う必要あるのかな?」
「嫌だったの?」
「いや……」
「……安田さん、まだ未練あんの?」
少し声音を落とした彼が、ジロリと嫌な横目をくれる。手紙の内容に疑問を持ったまでだが、つい余計なことまで口走ったか。
「ち、違うよ、そういう意味じゃ……」
安田は手振りを用いて否定するが、わざとらしく細めた横目は益々軽蔑してくれた。
「よ、洋平くん……」
困った安田はその場で項垂れる他なかった。そもそも、彼はこんなことで怒る人間ではないというのに。あえて困らせようとしているのはどことなく察したが、そこで一体どうしろというのか。思案に暮れたところで、丁寧に便箋を折り畳み、嫌味たらしく封筒に入れて突き返す彼は何がお望みか……。恐らく…………そう。
安田はその手紙を受け取ることなく、無言で隣のベルトに手を掛けた。じっと様子を窺う彼とは一切視線を合わせず、忍ばせた片手で中央の金属部を外すそうと試みる。しかし上手く外れないことにはソファを降り、彼の開いた脚の前に跪いた。硬いジーンズを履いた脚の内側で、まだ膨らみにない中心部を顔の前に、再び手を掛ける。
すると痺れを切らしたか、さっと降りてきた彼の右手が速やかにベルトを外し、チャックを開けパンツをずらした。目の前に顕にされたソレはまだ休息にあり、手に取っても柔らかい。先のAVは気に召さなかったか、安田はそのまま口へ運び、あとは夢中でしゃぶった。舌を遣い、頭を上下に、熱く増していく硬さを口内に感じた。
……自分だけ良くなるつもりじゃないから。自分だけ良くなる気かと、いつか言われた言葉を思い出していた。これが屈服を示す精一杯の愛情表現だった。
「安田さん……?」
画面から放たれる喘ぎ声の合間に、頭上から降りかかった優しい声。撫でられた額をそのまま持ち上げられ、すっかり欲望を現したソレから安田は口を離した。
「いい子だね」
素っ気ない褒め言葉が、上げた顔の前で無表情に囁かれた。
やがて再びベッドへ押し倒され、下半身を顕にした彼が上から迫ってくる。陰るスカした表情の下、巻いていたはずのタオルはすでに消え、安田の片脚は大きく外側に開かれた。
「怖い……?」と真正面から窺う端正な顔立ち。
「そりゃ……」
安田は顔を横に背け、小さく呟いた。
今、しっかり開かれたソコに感じ始めた未知の水分。冷たくてとろみのある液体が入り口に塗り込まれる。そしてグリグリと無言で侵入する指一本には、声を漏らさずにいられなかった。
「んっ……んぅう……」
そこに不意の甘いキスを受け、ふっと気の抜けた隙に一気に二本が挿入される。
「んーっ! んん! んんっ!」
阻む壁を唐突に貫かれ、必死に抵抗を伝えた声はキスに封じられていた。
「んんー! んー、んー!」
目を大きく見開いては洋平の肩を押し、更には足を激しくバタつかせると、程なくキスが解かれた。そのままゆっくりと中の二本を抜いてくれた。水戸洋平がその厳つい外見に反し、友達思いの優しい人間なのを知っている。フゥ、と息吐いた安田は一先ずの安心を得た。
「安田さん、目ー閉じて……」
そっと優しい指先が安田の輪郭をなぞり、顎を摘んだ。
「え? ああ……なんで?」
「俺キスしてる顔見られたくないの」
しっとり薄めた細目で、そんな台詞を吐きつつ静かに寄せられた唇。洋平が少し可愛く見えたのは内緒だ。
安田は淡い笑みを浮かべ、すっと目を閉じた瞬間。キスを待つ唇より先に、もう一方の脚が深く押し広げられ………………
「うあぁぁっ!」
う、嘘だろ………………。飛び跳ねた声は疾うに消え、天井には重なる洋平の下でひたすら目を瞠る安田がいた。
「痛い、痛いよぉ……」
「いいよ安田さん、もっと鳴いて……」
明らかな抵抗を無視しつつ淡泊に挑発してくれる彼に、安田は先の水戸洋平像を破壊した。
「む、無理だよ……無理だから……」
喚きながら首を左右に振るが、優しい彼は今ここに居なかった。中を貫こうとする肉棒は熱く硬く、狭い細道をずぶずぶと拡張してくる。先程の水分はこのためだったのか、今更納得するには遅いが、中の狭さを考えれば全く足りてない。痛みと圧迫を受ける苦しさで声が詰まり、もがくにもがけないでいた。
「んぅぁ、あっ……、はぅっ!」
それでも受け入れようと思う心に反し、身体は異物を押し戻そうと必死に拒んでいる。腹筋から全身に力が篭り、歯を食い縛り力強くいきんでしまう。
やっぱり痛い……。痛いよ、洋平くん………………!
「痛い、た、すけて洋……、くっ……」
「泣かせてっつったの安田さんっしょ?」
そう冷たいムチで叩かれた後で。
「ゴメンね……」
と、甘いアメを貰った。




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