見えない鎖を断つ方法 1


夏以来の再会は冬休み、いつかの駅で。電話で待ち合わせた五時四十二分に電車を降り、他の乗客に押し出されるよう改札を出ると、早速その人の声が飛び込んできた。
「洋平、こっち」
柱の前で立っていた彼が人の往来の向こう側から歩み寄ってくる。ウインドブレーカーの内側に滲むその汗は外の北風を感じさせず、ほんのり赤らんだ顔がまた、今日の日課を物語っていた。
「ハァ、こっちも寒みぃわ」
「その薄着じゃあね」
「へへ……」
なんとも照れ臭かった。隣で肩のスポーツバッグを掛け直し、薄地のパーカーを羽織っただけの洋平を見下ろすその視線がくすぐったい。夏の喧嘩と仲直りが今になって恥ずかしく、対面して弾んだ心が今も顔を弛ませていた。
しかし駅を出てすぐ、アパートへと続く道を懐かしく思うと同時に吹き付ける冬の夜。ピリリと凍てつく風の冷たさに弛んだ頬を引っ叩かれ、隣のウインドブレーカーもカサカサ云っては咄嗟に身を竦めた。
そのまま街灯の明かり出した歩道へ、未だ身震いを催す体が救われたのは、人々の出入りから逸れたところ。隣の腕が無言ですっと洋平の腰に回ってきた。
『ねぇ、俺と付き合ってよ……』
――あの夏、まるで欲しかった言葉を見透かしたような、身を重ね囁いた直球の過ぎる告白が蘇り、ここにある関係を噛み締める。
夏が終わり、洋平がここを去ってから特に電話もなかったわけだが、卒業を控えた周囲の焦りに気圧されていたこともあり、寂しいのは夜だけだった。つまり寂しかったと、そう、カサカサ云う隣の生地に片手で訴えた矢先のこと…………。
温い背中に浴びせられたのは、木枯らしより冷たい人の声だった。
「ちょっとあれ見て、男同士!」
「うわぁ……あんなにピッタリくっついちゃって」
…………頭きた。というより、折角の再会に水を差されたことが嘆かわしい。
これがもし神と出会う前の洋平なら、目の前に男同士のカップルが現れたならそれこそ彼女らと同様、嘲笑の目で冷やかしの一つも投げつけていたことだろう。にも関わらずついムッとしたのは大人気ない、洋平は背後を睨めつけ彼女らを一蹴した。彼女らはそそくさと去っていった。
するとそれを宥めるようまたも身が引き寄せられ、風の通る隙間もないほど二人は密着する。
なんなの……? と上を見上げれば、まるで冬にそぐわぬ柔い笑みがそこにある。周囲の目なんか気にしない、そんな一つ年上の大らかさを垣間見ていた。
神が話題を変えた。
「それで、選抜はどうだったの?」
今年選抜に出たのは湘北だと、先日の待ち合わせの電話ですでに報告していた。
「ああ、それが……」
「ん?」
「それがさ、ひっでぇもんだったんだ」
キレた花道が相手を殴り、一時乱闘騒ぎに発展。当然の退場が告げられた。
「……でも、花道の気持ちはスゲェわかんだ。あんな試合、俺だって二度とゴメンだ」





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