その15【ホワイトデー・イヴ】

前回のお返しをと、集まった左の人三人

神「あのバレンタインのお返しなんて……するんですか?」
牧「木暮が期待してるんだ。悪いが乗ってくれ」
形「礼を望まれるくらいならもう少しまともな物が欲しかった。だいたい、なぜ俺の眼鏡ケースに入ってたのか……」
神「流川の気持ちって言えばそれまでですよ。ほんのりカレーの味したのも、中に外装ごと眼鏡チョコが入ってたのも、きっと気持ちだとか言うんですよあの三人は」
牧「ハァ、木暮があの二人のペースに嵌っていく……」
形「それを言ったら流川もだ。元々こんな戯言に乗るような柄じゃなかった」
神「そうですか?なんだかんだ言ってその二人が一番楽しんでる気がしますけど」
牧「だから困るんだ」
形「せめて流川がボケ役に走る展開だけは避けてほしい」
神「だったら、今回でこういうの終わりにしましょう」
牧「終わりだと言って引く輩か?」
神「いや、それも少し可哀想だし、何より相手はあの三人ですから。ここはちゃんとお返しをして、身をもって後悔させてやるんですよ。バレンタインなんてやらかきゃよかったと」
形「というと……」
神「なにか受け取って後悔するものをあげればいいんじゃないかな」
形「なるほどそれでいこう」
牧「それも恩を仇で返すようで気が咎めるが……」
神「牧さんいいんですか?木暮さんが、以前のような牧さんの裸体チョコを持ってくる日がきても」
形「ああ、それをやろう。貰ってがっかりの牧チョコだ」
神「いいですね。ホワイトデーだからホワイトチョコかな」
形「白い牧か、食べたくないな」
牧「…………」
神「食べるにも持ち帰るにも苦労しますからね。憮然とする三人の姿が目に浮かびますよ」
牧「断る」
形「しかし効果は絶大だ。あれを貰えば二度とこんな真似はしない」
牧「といっても、そもそもどうやって作るんだ。俺が裸体を晒したところでお前らにあんな彫刻が出来るか?」
形「それもそうだし、そこまで大量のチョコを用意するのも大変だな」
神「じゃあ、牧さんの顔だけにしましょう。顔の型だけとってしまえばあとはチョコ流すだけですもん」
形「瞳だけマーブルチョコにしたい」
神「いいですね。じゃあ黒子は黒胡麻かなんかでいいかな」
牧「まったく、お前らもあの三人と同類じゃないか」
形「じゃあ牧が他に尤もな案を出すべきだな。そもそもの言い出しっぺは牧なんだ」
牧「…………わかった。好きにしてくれ」
神「了解も得たことですし、俺美術やってる友人から型取り剤借りてきますね。ついでに買い物も行ってきますから」

ここで神が外出すると、残った二人は忽ち無言に。
一時間後、神が戻ったことでその気まずい空気は解消した。

神「ただいま」
形「お疲れ。早速だが、まずは型だな」
神「ええ。じゃあ牧さん、このストロー鼻に入れてください」
牧「鼻……?」
神「これがないと呼吸できなくなりますよ」

牧は渋々鼻にストローを入れた。
そしてタオルやらビニールやらで準備の整った彼にドロドロと型取り剤が塗られ、三分後。

神「そろそろかな、剥がしますよ」

牧の顔型が完成。

形「じゃあ、ここにチョコを流せばいいんだな」

瞳の辺りにマーブルチョコ、黒子の辺りに黒胡麻を置き、その上から溶かしておいたホワイトチョコを流す。
固まったそれを取り出して、牧チョコ完成。

形「これは青い目をした白人の牧だ……。まるで石膏像だな」
神「牧さんお疲れ様です。案外すぐ終わりましたね」
牧「ああ、我に返る瞬間を見失った」
形「しかしよく出来てるぞ。まず食べたくないからな。何よりこの…………ん?」
神「どうしました?」
形「ここ、毛が付いてる」
神「ここ……って、これ丁度黒子じゃないですか」
形「牧、黒子から毛が生えてるぞ」
牧「…………」
神「きっと途中で入り込んじゃったんでしょう。もう固まってるから、取り除くのは難しいかな」
形「奇跡の毛だ」
牧「取ってくれ」
神「でもそこまで厚くないんで、下手すると割れそうですよ」
形「何かピンセットのようなものでもあれば……ああ、これならあるぞ」
牧「毛抜き……?」
神「ここってなんでもあるんですね。じゃあちょっと試してみます」

神は牧チョコの黒子毛に毛抜きの先を刺し入れた。
そして上手く挟もうとしたが……

神「ヤバイ、亀裂入りそう……」

危機を察した彼はそこに毛抜きを刺したまま断念。

形「んー……これじゃ引き抜くだけで壊れそうだな。仕方ない牧がもう一回……」
牧「やらん」
神「まあ、いいんじゃないですかこのままで渡して。どうせ誰も食べないんですし」
牧「どうせ食べないものにここまでしたのか……」
形「ある意味あの三人より頑張ったな」
神「黒子毛を抜こうとしている青い目の白人牧さん、ですね」
形「ホワイトデーにぴったりだ」
牧「どこがだ」
神「きっと喜びますよあの三人」
牧「喜びより落胆が目的じゃなかったのか?」
形「いやしかし……喜びそうな気もしてきたな」
神「食べる食べないは置いといて、もう本格的な石膏像ですもんね。余計なもの付いてるけど」
形「それに、ここまでして落胆されるのも少し悲しい」
牧「それは俺の台詞だ」
神「じゃあせっかくだから喜んでもらいましょう。俺ラッピングしときますから」
形「俺は……仕上げとして髪の部分にココアパウダーでも振りかけてみるか」
牧「結局やる気じゃないか」
神「だって、ここまでしたら引けませんよ」
形「流川はがっかりするだろうが、木暮は喜ぶんじゃないのか?」
牧「それも困る」
神「はは、木暮さんからしたら恋人から貰う恋人ですもん」
形「黒い恋人からもらう白い恋人か」
牧「…………」
神「ああ、それでこの顔型はどうします?」
牧「捨ててくれ」
形「それも少しもったいないだろ。神の徒労が報われない」
神「ついでに飴でも流して、あとは……使い道ないか」
形「仕方ない、これもプレゼントだ」
神「貰ってくれますかね」
形「うーん、でもチョコよりは実用的じゃないか?」
牧「何に実用されるんだ……」
形「それはあの三人次第だ」
牧「やめてくれ。嫌な予感しかしない」
神「捨てるより、もし貰ってくれるならその方がいいじゃないですか」
形「だな。これで結構なお返しになった」
牧「ハァ。つまるところ来年もやるわけか……」


おわり