a tragedy day

キッチンにいる洋平は三徳包丁でただ黙々とリンゴを剥きながらグツグツと煮える鍋の蓋を数秒置きに開けたり閉めたり。痛ってぇえええ! と慣れない包丁裁きに激痛を訴える悲鳴が数分置きに響き渡る。
仏間の仏壇前に着席した大楠は数珠を片手に汗流しながら何やらひたすら唱え続けてている。
「ナンマイダーヨンマイダータリナイダーダメダコリャー」
坂道を猛ダッシュで駆け上る野間は大量の袋を両手に提げ買い物から戻るところ。大変だ、こりゃ大事だと慌てるあまり今ド派手にスッ転ぶ。直ちに起き上がっては転がるように坂を下り、袋から零れた中身を拾い、再び坂道を駆け上る。
高宮は…………
「ダーッ!! 高宮テメェ何勝手に食ってんだよ!」
「まあまあ新鮮」
「おい……笑えねぇんだよ…………」
いかん、とうとう洋平がキレたと、今ようやく帰ったばかりで息を切らした野間が包丁片手に高宮に突っかかる洋平を慌てて止めに掛かる。その途端、買い物してきたばかりの袋からはまたペットボトルやミカンにオレンジがゴロゴロと転がり出した。
そんなことに脇目も振れぬ大楠は今も仏壇の遺影に延々唱え続けている。
「エロイノイッサイ無、エロイノイッサイ無、イザワレラノネガイカナエタマエー………」
そしていざ、高々と振り上げた右手の箸を勢いよくおりんへと振り下ろした。
チ―――――――――ン。
「ダ―――ッ!! オメェらうっせぇんだよもう好い加減帰りやがれ!!」
大楠の背中で今、布団を蹴散らすように跳ね起きた花道の燃えるように熱い頭突きがてんやわんやの四人にお見舞いされた。
そこら中に倒れた四人の腫れあがった額からはシューと蒸気が発し、そこに買ってきたばかりの冷えピタが貼り付けられた。
そして、気を失うようにフラフラと倒れ込んだ花道から今、39℃を示す体温計が滑り落ちていった。