その22【夏の誤算】

流「zzz……」
暮「……それで夜に牧から電話きた時、聞いてみたんだ。そしたら、日焼けオイルと間違えて持ってったってさ」
神「牧さんは相変わらずですね。益々いい色になってそう」
暮「はは、流川も期待してるだろうし、帰りが楽しみだ」
神「ええ、そろそろですね」

――そこに一人目帰還

洋「ただいま」
神「あれ? 牧さんと花形さんは?」
洋「今裏で取り込み中」
暮「取り込み中……?」
神「やっぱり、なんかあったの?」
暮「嫌な予感はしてたんだが、花形落ち込んでるか?」
洋「まあ……ね。でもすぐ戻ってくっから」

――二人目帰還

牧「ただいま」
暮「お、牧また焼けたな」
神「まさに照り焼きですね」
洋「ったく、オリーブ臭ぇっつってんのに気にしねーで塗り始めるから、俺もビックリしたわ」
暮「え……っ? まさか牧、体に塗ったのか? オリーブオイル……」
牧「サンオイルと間違えて持ってったんだ。仕方ないだろう」
神「そもそも間違えるものかな……」
牧「油は油だ。何も変わらん」
洋「何も売店で買ってくりゃいいのに、聞かねーんだもんな」
暮「はは、世話かけたな水戸くん」
洋「俺は別に、何したわけじゃないんだけど……ああ、で、花形さんは?」
牧「あいつはだな…………」
流「zzz……」
牧「今流川が寝てるから話すが、暫く流川と顔を合わせたくないそうだ」
洋「やっぱりそうなっちまったか」
暮「やっぱりって……俺花形の所行ってくる」
神「俺も」

――木暮と神退室

洋「俺がちっとは気ぃ利かせりゃよかったんだが、つってもなぁ……」
牧「結果としては流川が望む形になってしまったな」
洋「だな」

――木暮と神帰還

暮「…………」
牧「まだ落ち込んでたか?」
神「壁際で沈んでましたよ。いったい、どうやったらあんな立派なメガネ焼け……」
暮「まず、一から聞いていいか?」
洋「勿論。最初は仲良く三人で浜辺行って、着いたのは昼頃だったか。混んでる中でどうにかビニールシート敷いて、ちゃんとパラソル立てて、牧さんはオリーブオイル塗って、準備は万端だったんだ」
牧「そこで俺の過ちの一つが、俺がそのまま波乗り行って夕方まで戻らなかったことだ」
暮「一人でずっと楽しんでたのか?」
牧「まあ最初は……。それでも一度は戻ろうとしたが、その……混み過ぎて何処だかわからなくなった」
神「迷ったんですね……」
暮「迷子か……」
洋「まあ牧さんは最初からそう言ってたわけだし、原因はまた別だ。一つはパラソルの立て方だな。まさか倒れるとは……」
神「倒れたって、何も立て直せばいいじゃん」
洋「んまぁ」
暮「壊れちゃったのか?」
洋「いや……白状すっと、帰りは四時で決めた後、俺ちっと用足しあって」
神「用足しって……」
洋「事前に近場確認しといてよかった。イベントもあったし、まあまあの勝ちでしたよ」
神「パチンコね……」
暮「なるほどな。それで日時予定は全部水戸くんが決めたのか」
洋「さすがに花形さんと二人きりで数時間過ごす自信なかったんで」
牧「見事な打算だ」
洋「俺も一応気にして、花形さんが一人でも飽きねーように、色々置いてってやったんだが……」
神「何持ってったの?」
洋「そりゃ暇潰しっつったら麻雀っしょ」
暮「花形は出来ないだろ……」
牧「それ以前に、麻雀は一人でしないだろ……」
神「何れにしろ、別にパラソル倒れただけなら花形さんが直すことも出来たのに、なんでしなかったんですかね?」
洋「そこは……いや、それこそが今度の全ての根源かもしれない」
暮「え? どういうこと?」
洋「実は花形さん、俺がパチンコ行ってからずっと寝てたらしいんだ」
神「昼寝……かな?」
洋「いや、昨日はよく寝たっつってたし、読みたかった本数冊持ってきたくらいだ。気が向けば海で泳ぐとも言って、コンタクトレンズまで持ってきてた。それに、あの暑さと賑わいの中じゃ寝る気も眠気もなかったっしょ」
暮「じゃあなんで……?」
牧「まさか…………!」
洋「そ。流川だ」
神「え? 流川が何なの?」
洋「先日、解散間際に流川が花形さんに渡したっしょ。御守りだっつって」
神「ああ。あれ、何だったの?」
洋「たぶん、睡眠薬」
暮「な、なんで?」
牧「花形はそれをハイ○オールCだと言って飲んだ」
暮「ハイ○オールCって確か……シミを消す薬だっけ?」
神「なんでまた……」
洋「流川もたぶん、そこまで日焼けしてほしいわけじゃなかったんかな?知らねーけど。でも花形さんがそれを飲んだ後、やけにうつらうつらしてた」
神「意味がわからないよ。なんで日焼けしてほしくなくて睡眠薬なわけ?」
洋「そこは俺もさっぱりだ。流川に直接訊くしかねーな」
暮「そっか。じゃあ流……」
牧「待て。花形は今の姿を流川に見られたくないんだ」
神「あれじゃ白縁メガネですからね……と言っても、見られないでいられるのも時間の問題でしょう」
暮「せめて日焼けが退くまでは、流川と対面しないように、なんとかできないかな?」
洋「なんとかっつってもなぁ」
神「普段は眼鏡で隠れるけど、寝る時ですね」
暮「だな。眼鏡かけたまま寝るわけにはいかないし」
牧「だったらアイマスクでいいだろ」
暮「そうだな。言ってこよう」

――木暮退室。

――帰還。

牧「どうだった?」
暮「却って不自然だって」
神「まあ……それに、風呂入る時もうっかり見られる可能性ありますし」
洋「何も開き直っちまえばいーのに」
暮「余程ショックだったんだろうな」
洋「眼鏡外した顔見た時、ちっと噴き出しちまったからな」
神「もう洋平の所為じゃん」
牧「スマン、俺も笑った」
暮「牧お前……」
牧「いや、これは全体責任だ。そもそも花形に海行きを勧めた時点で間違いだったんだ」
暮「そこは俺も反省だな」
洋「まあ発端は流川だけど」
神「とりあえず、流川が寝てる間に解決策を見つけなきゃ」
暮「解決策か……」
洋「あ、メガネ焼けのとこだけ黒で塗っちまうとか」
神「花形さん怒るよ……」
洋「ダメか」
牧「単純に、顔を合わせないだけでいいなら、花形がどこかに泊まればいいだけじゃないか?」
暮「それじゃ花形に負担がかかるよ。今度の被害者は花形なわけだし」
洋「じゃあ流川がどっか泊まる」
神「流川が発端って意味では妥当だけど、流川が納得してくれるかな?」
牧「そもそも一人じゃ起きれないんだろ?」
暮「まあでも、それがいいかもしれない」
牧「どれだ?」
暮「贖罪として、うちに暫く流川を泊める。その間、水戸くんらは花形のフォローと日焼けのケア」
牧「本気か……?」
神「ま、妥当かもしれませんね」
洋「全員罰ゲームってやつか。至って公平だ」
暮「きっと一週間はかかるだろうから、そのつもりで」
牧「決まったなら仕方ないな。じゃあ流川を起こすか」
神「俺も本物のハイ○オールC買ってこないと」
洋「ったく、端っから海なんて行かなきゃよかったんだ……」


続く?