その12【牧誕】

牧「やはり、今日なのか……」
形「誕生日はやめたんじゃなかったか?水戸くんと木暮の誕生日はやらなかっただろ」
神「木暮さんの時は確か、Tシャツが増えすぎたとかでナシになったんですよ」
暮「なんか悪かったな。気持ちは嬉しいんだがもう箪笥がいっぱいなんだ」
洋「牧さんの買ったクローゼットは?」
牧「とっくに埋まってる」
形「…………」
洋「そんでもケーキくらいなら用意したのに」
暮「いやぁ、ケーキはいいよ」
牧「ケーキよりTシャツか」
暮「ああ、ケーキTシャツか」
形「…………。」
神「それで牧さんの誕生日ですけど、俺プレゼント用意してませんよ」
洋「俺も」
暮「急だったからな」
形「ケーキもTシャツもないぞ」
流「俺は用意した」
形「偉いな流川」
牧「な、何を……?」
流「これ」





牧「…………」
暮「これってパロディ映画だよな」
洋「また古いやつ持ってきたな」
神「でもなんでこれなの?」
流「牧さんバスケに関するものならなんでも興味あるっつったから」
形「これにバスケのシーンなんてあったか?」
流「ねー」
牧「…………」
暮「じゃあなんで……?」
流「これと間違えて買った」





神「台湾のバスケドラマ?」
暮「タイトルが同じだったんだな」
形「確か、ド素人の属する大学バスケチームに天才的プレーヤーが現れ、よきライバルとして成長し試合を勝ち抜いていく内容だな。時にエースキラーなる敵も現る」
牧「どっかで聞いたような……」
洋「バスケ人気高いんだな」
形「某バスケ漫画の影響で、特に中国なんかは一躍バスケ大国にまで成長した。皮肉な結果だ」
神「それに比べると日本は今ひとつですね。サッカーや野球に比べたらやはり人気は劣りますよ」
洋「じゃあ、これとおんなじことすりゃいんじゃねぇの?」
暮「おんなじこと?」
洋「実写でこういうドラマ作んの。イケメンばっかの」
形「それならすでにあったような……」
洋「そういうストレートなバスケドラマじゃなくて、一味も二味もクセのあるやつをかませば当たるってもんよ」
神「けど、役者の実技も伴わなきゃバスケをやってる身としては納得できないよ」
形「しかし注目を引くためにもやはり顔は重要だ」
暮「となると、藤真とか?」
神「いい主人公になりますね。顔も綺麗だし実力もある」
形「それを言ったら流川もだ」
洋「いや、演技力っつー問題がクリアできねぇ。だからここは神さんだ」
神「俺!?」
洋「神さんの朝に始まりシュート練習、勉強もして夜の眠りに就くまでの努力の日々を延々垂れ流し」
暮「神しか出てこないのか」
牧「それこそ演技力いらないだろ」
形「やはりドラマなんだからストーリーがなきゃいけない。それこそ流川がアメリカに出るまでをドキュメンタリーでやれば、顔も実力もクリアだ。より現実味のあるドラマになる」
牧「顔は確かだが、視聴者はもっと素人目線で見る。よって、ここは典型的な主人公顔の木暮が努力でレギュラー入りを勝ち取る方が親しみやすくもあるだろ」
洋「内容はそんだけっすか?」
牧「いや、練習中に不良が押し入り喧嘩に発展。主犯格の男に木暮が勇気を振り絞り、『大人になれよ』これで流行語大賞まで狙える」
暮「牧はなんで知ってるんだ……?」
神「あと、仙道なんてどうかな?色んな意味でオールラウンダーだろ」
形「……まあ、役者向きの顔でもあるし不服はないが、途中で恋愛ドラマに発展するのは必至な気がする」
洋「三角関係どころか四角にも五角にも発展しそうな。女優も複数必要だな」
暮「流川は、誰がいい?」
流「主人公花形透」
牧「ほう」
流「敵役牧さん」
神「敵?」
暮「試合で対立するのか?」
流「素手で決闘」
形「……?」
洋「バスケは?」
流「しねー」
神「ダメじゃん」
暮「でも、少し見てみたいかな……」
洋「K-1か。高視聴率間違いねー」
流「素手だがビームはアリ」
形「だから出ないよ」
牧「ハァ…………。」
暮「牧が主人公だとどうなるかな」
神「まずバスケのドラマとは到底思えないね」
形「衣装は紫のスーツだ」
洋「そこを無理矢理バスケに持っていくとなると……」
神「任侠バスケ?」
洋「ユニフォームの隙間から背中にちらりと般若が覗く」
暮「牧、まさか背中に……!?」
牧「あるわけないだろ」
神「新しいといえば新しいですね。きっかけはレギュラー入りを目指す木暮さんに胸を打たれて……とか」
洋「己を嘆き足を洗った牧さんはメガネくんのいる体育館へ、そこに押し入ってきた不良を撃退。メガネくんの恩人になる」
形「その後晴れてメンバー入りした牧に次いで仙道も加わり、程なく恋愛沙汰のゴタゴタに巻き込まれる。尽きない木暮の苦悩の日々」
神「そこに救世主として現れた流川だが、僅か一ヶ月でアメリカに発ってしまい、運よく空いたレギュラーの座を木暮さんが勝ち取る努力の話……か」
洋「神さんは?」
牧「神は日常垂れ流しなんだろ?」
洋「ああ、じゃあCMだ。神さんのシャンプーに入浴剤にボディソープの宣伝を合間合間に流しゃあいい」
牧「全て浴室か……」
神「そこは藤真さんの担当じゃないの?」
形「藤真はやはり牧のライバルがいいな」
流「そんな藤真さんの秘密兵器、花形透が牧さんとガチンコ対決する運命のラスト」
洋「ある意味スゲーな。色んな要素つまってら」
神「支離滅裂もいいとこだよ」
牧「任侠もバスケもない」
暮「そういえば、水戸くんだけ出てこないから最後に出そうよ」
洋「俺バスケできませんよ」
流「藤真さんの秘密兵器その2」
形「……ということは、その1の俺は牧に負けるのか」
流「いや。藤真さんにも勝った牧さんはその日一つ年をとる。エンディングテーマ『世界が終わるまでは』が流れる中、覆ることのない酷な現実に人知れず肩を落とす牧さん。その姿を影から見守っていた木暮さんの憂わしげな台詞。『気にしてたのか……』感動の最終回に日本中が涙」
牧「涙…………?」
神「それは確かに、泣けるね……」
暮「牧、誕生日おめでとう。もう涙が止まらないや……」
形「終わり良ければすべて良し。涙なしでは見られないドラマだ」
洋「これぞ仁義。悪かねーな」
牧「…………。俺は、そこまで気にしてない」


おわり