その11【牧誕】

暮「牧おめでとう、よかったな」
神「まさか本当にこの日とは、一体誰が決めたんですかね」
形「ああ、誰だったかな……。まあせっかくの誕生日なんだから、牧も少しは喜んだらどうだ?」
牧「いや………」
流「zzz……」
洋「そういや希望聞いてなかったんで、プレゼントは期待しないでくださいね」
牧「それは問題ない。まず期待してない」

神「じゃあまず俺から渡そうかな。はい牧さん、誕生日おめでとうございます」

牧「……………」
形「これは酷いな。[肩たたき券]10枚か……」
暮「これ神がやってくれるの?」
神「ええ、そのつもりです。俺の都合上使える券は一枚ですけど、肩たたきのほかにオプションで愚痴も聞きますよ」
暮「あ、ほんとだ。10枚中9枚が有効期限過ぎてる」
形「なら一枚でいいだろ……」
牧「俺はまだ肩こりはない」
形「それより、さっきから水戸くん黙ってるけどどうした?」

洋「それが、また神さんと被りました。牧さんおめでとうございます」

牧「…………………。」
神「ええ?! 何これ……」
洋「神さんとはどうも気が合っちまうんだ」
形「……いやいやいや、気が合うも何も[肩パンチ券]はないだろう」
暮「これは……牧が痛い思いするのか?」
洋「いえ、痛み分けです。俺の拳と心も痛みますから」
牧「俺がやられるのか……」
形「誰が得するんだ……」
洋「熱い友情ごっこをするんですよ。牧さんが何するんだってキレたら、俺がいい感じに逆ギレすんの。俺だって痛ぇんだ、わかんねぇのかって。胸が熱くなる最高のシーンを演出します」
牧「全然わからん……」
洋「ちなみに期限ありませんから、バイトない日ならいつでも」
牧「いや………」

暮「俺は………実はこれ、牧におめでとうを言う前に流川に謝りたいんだ」




牧「な、なぜだ…………?」
神「これこの間、流川が木暮さんにあげたやつですよね?」
暮「ああ。一回着てはみたんだけど、もちろん気に入ってたんだけど、やっぱり牧の方が似合う気がして……」
洋「ていうか、元々牧さんのなんですよね?」
形「遠回りして返ってきたわけだ」
流「俺も着てみた」
暮「お、起きたな流川」
神「そんなにそのTシャツいいの?」
洋「メガネくんだけならともかく、花道も惚れ込んだくらいだから何かあんのかもな」
牧「欲しいならやる」
形「それでまた返ってきたら本物の曰く付きってやつだ」
暮「す……すごいなこのTシャツ……!!」
牧「木暮、目を輝かすな」

形「俺は、牧のセンスに合わせたつもりだ。おめでとう」

牧「悪い、返す」
形「何故だ……? それなりに金かかってるぞ」
神「そうですよ牧さん、眼鏡もらえるなんて嬉しいじゃないですか」
牧「大体、花形は俺の視力も知らないだろ?」
形「知らないが時機合うようになる」
洋「時機に……?」
牧「……ずっと後の話じゃないか」
形「そこは何とも言えないが」
暮「……ってまさか………」
神「え? これ老眼鏡………?」
牧「帰る」
暮「牧待てよ、後で使えるんだからいいだろ」
形「すまない牧、フレームで選んだらまさかの老眼鏡だったんだ」
神「それに、まだ流川の貰ってませんよ」
牧「……ああ、悪かった。大人気なかった」
洋「じゃあ流川の……って、何してんだ流川?」

流「何でもねぇ。牧さんおめでとうございます」

牧「…………?」
神「中央に点が描かれた紙、というか紙に描かれた点……?」
形「流川、何だこれは…?」
流「牧さんの似顔絵」
洋「似顔絵って……ああ……」
形「まあ似てるが、これは似顔絵じゃなくホクロ絵だ」
神「もしかして流川、プレゼント忘れた……?」
流「いや………」
牧「ちょっとトイレ」
暮「おい牧、待てよ」

ここで牧と木暮退室。

神「やっぱり気にしてますね……」
形「さすがに肩たたき券は露骨すぎるだろう」
洋「老眼鏡のが酷ぇって」
神「それも酷いけど、肩パンチはあれプレゼントなの? 牧さん殴ってみたいだけじゃなくて?」
洋「まあそれもあっけど、でも即興のホクロ絵よりはマシだ」
流「額に入れて飾ってもらう」
形「それなら額もプレゼントするべきだったな」
流「………」

五分後

暮「ただいま」
牧「………。」

洋「あ、お帰りなさい」
形「悪かったな牧、色々と」
牧「いやいい、俺も悪かった。何も気にしてない」
神「気にしてないって、牧さんが気にしてないって、一体何が……?!」
暮「みんな牧が大好きなんだって、少し言い聞かせてやっただけだよ」
洋「本当にそれだけですか?」
牧「………。」
形「あの牧が気にしないんだ、何かそれなりの対価を得たはず」
暮「そ、それは……」
牧「ああもちろんだ。今晩木暮が…」
暮「だーっ、何でもないよ。流川の似顔絵がよっぽど気に入ったんだよな? なぁ牧」
形「あれのどこが……?」
神「ますます怪しいけど、俺は牧さんがずっとそのままならそれでいいです」
洋「牧さんには益々黒くあってほしい」
暮「いくつになってもそのままでいてほしいな」
流「もうこれ以上老けねぇ」
牧「あまり嬉しくないのは何故だ……」

神「それともう一つ。誕生日一通りやったけど、もういいですよね?」
形「気持ちだけでじゅうぶんだったな」
洋「翌日にはゴミになるもんばっかだ」
暮「そうか? プレゼント嬉しかったけどな」
牧「誕生日の度に年齢聞かれるのも気分悪い」
形「牧、同級生じゃなかったのか……?」
牧「同級生だ、当たり前だろ」
神「そうやってずっと気にしててくれれば俺は言うことないです」
流「来年の似顔絵も変わんねぇ」
洋「変わんのかあれ?」
暮「ハァ、やっぱりあのTシャツ惜しくなってきたな……」

おわり